映像で見るか小説で読むか◆『夜行観覧車』湊 かなえ

テレビドラマを先に見てから小説を読んだのだが、ドラマでは設定が多少変わっていたり、小説では登場しなかった刑事が登場したりしていたけれど、全体の印象はあまり変わらない。変わらないが、どちらかといえば、ドラマのほうが好き。

湊かなえ作品は映像化されたものは割とよく見ているのだけど、小説は「告白」しか読んだことがなかった。監督で映画化された「告白」も小説とはまた違った表現であったけれど、全体の印象は同じだった。しかしこちらも、映像のほうが好き。

どうやら、私は湊かなえ作品は映像のほうが好きらしい。なぜか。小説だと登場人物たちに焦点があたりすぎて、周りの情景が見えてこないからかもしれない。「告白」を読んだのはだいぶ前なのであまり覚えていないのだけど、「夜行観覧車」では、坂の上の高級住宅地、坂の下のコンビニ、主人公たちの住む「ひばりヶ丘で一番小さな」家などキーワードとしては場所が出てくるのだけど、具体的な風景が広がらないのだ。

じわじわと染みこんでゆくような絶妙なストーリー展開には引き込まれるのだけど、それが、小説だとあまりにストレートすぎて、濃度が濃すぎる。ドラマや映画だと、俳優さんの演技や衣装や周りの風景や建物などで中和されていい具合に薄まる。ような気がする。

高級住宅地に住む、一見幸せそうで何の問題もなさそうな家庭で起こった殺人事件。その向かいに住む崩壊寸前の家族。なにが普通でなにが普通でないのか。幸せとはなんなのか。日常の中にある狂気。どこの家庭にもある秘密。遠くだと思っていたボーダーラインは実は日常のすぐ隣にあるのではないかと、気付くかどうか。

家族っていいものだよね、って声高には言わないところが、湊かなえ作品っぽいところかもしれない。