少年の夏休み◆『しずかな日々』椰月 美智子

祖父の家で過ごす少年の夏休みを描いた作品。大人が読んで、ああ、子ども時代ってこうだったな、って思えるようなシーンが多い気がする。ある種、ノスタルジックな。

椰月美智子作品を読むのは3冊目なのだけど、この人の作品、つまらないとは思わないのだけど、好きでも嫌いでもなくて、それなりにスイスイ読めるのだけど、心をかきむしられるような激しいものや、ドキドキするような結末はない。好きな人にとってはそれがいいのかもしれないけれど、ちょっともの足りない。

この作品だと、主人公の少年の母親がスピリチュアルな方向に行ってしまって、「どこにでもいる少年」の「しずかな日常」の話ではない。普通の人から見たら特殊な生き方を選んだ母を持った少年の話だったら、もう少し事件を期待してしまう。

しかしこの小説はあくまでも少年と祖父の話だから、母のエピソードが邪魔な気がしてしまった。少年が祖父と暮らすようになる理由は、母は病気だとかそういう一般的なことのほうがよかったんじゃないかなぁ。そのほうが、なんでもないような日常をみずみずしい小説に描いた、という感動がある…気がする。

いや、逆に「訳あり少年」の「なんでもない夏休み」だからいいのか。

ちょっとした場面で、随所に素敵な表現がちりばめられていて、それがひとつの作品のなかに、自然に全部溶け込むとすごいんだろうなと思いながら読んだ。私が言うのもおこがましいけれども、まだまだ伸びしろのある作家さん。今後の作品にも期待。

あ、「しずかな日々」の続編なんかもあるかもしれないのかな。少年の恋愛、結婚とか。