なるほど青春小説◆『火花』又吉 直樹

又吉直樹さんの芥川賞受賞作。電子書籍で読了。すらすらと読みやすくてわかりやすい内容だった。

又吉さんは熱烈な太宰治ファンとのこと。私は太宰は「人間失格」をわりと最近になって読んだくらいで、あまりよく知らない。だけど、「人間失格」と並べて読むと、なるほど納得。

作品の解説で「青春小説」とジャンル分けしている記事があったけれど、それも納得。私は「人間失格」に共感するタイプではないということが、読んでみてわかったのだけど、この「火花」も「ああ、なるほどねぇ」という感じだった。つまらないというわけでもないのだけど、「ああ、わかる!」っていう感じでもない。「ふうん」という感じ。

でもたぶん、そこがいいのだ、きっと。

生身の人間が、なんかジタバタしながら生きて行く感じ、なのかな。

芸人をめざす主人公と彼が師匠と呼ぶ先輩芸人との日常。バックステージものとしても楽しめるのだけど、お笑い番組もお笑い芸人もあまり興味のない私にとっては、「へぇそうなのか」とは思うものの、「知らなかった、すごい」とまではいかず。「うわこんなことまで書いちゃってる」っていうわくわく感も特になかった。でもお笑いを知らない人でも入り込めるくらいの情報量はあって、それはバックステージの暴露というよりは、小説の成り立ちに必要な要素の一部として描かれているだけなのかもしれない。だから、読んでいても必要以上にうっとうしく感じなかった。

作者に近い、お笑いという世界を描いているけれど、有名になりたい、ビックになりたい、という若者の夢と現実とのギャップ、そこに向かってゆく過程と挫折、諦めというテーマは、誰にでも当てはまる。そこが、「人間失格」と共通するなと思ったポイントだと思う。