せつない物語◆『青山娼館』小池 真理子

発売当初から気になっていたものの、ハードカバーでは高いなぁと思って、文庫化を待っていた。なかなか文庫化しないなぁと思っていたのだけど、Amazonでは発売日がかなり前なので、しらない間に文庫化していたのに気付かなかったのかも。

ともかく、やっと読んだ。遊郭ものが好きなので、現代の、東京にある娼館が舞台と聞いて興味津々だったのだ。小池真理子氏の著書は初めて。でもイメージとしてはやわらかな官能。そしてその印象は間違ってなかった。

なんというかせつない物語。家族の喪失という悲劇が、登場人物たちの感情のベースになっているけれど、悲壮感よりもたゆたうような頼りない、だれかにすがりたいようなせつなさ。人のぬくもりをもとめて高級娼婦という仕事を選ぶ主人公。恋人、親友を失った悲しみを、静かにゆっくりと埋め合う男女。

信じられないくらいの高額の会費を払ってやってくる娼館の会員達。あくまでも華やかで豪華な娼館を背景に、物語は主人公と彼女をとりまく人たちの過去を探りながら、ゆったりと進む。そしてせつない余韻を残しながらゆったりと幕を閉じる。

結局、人は過去からは逃れられないし、失ったものは取り戻せない。最後はそれを受け入れるしかないのだけども、そこに至るまでにはなにか、過去の自分を断ち切るような大胆な決断や行動も必要なのかもしれない。高級娼婦という仕事を別のものに置き換えれば、身近によくあることなのかもしれないとも思ったのだった。