ネタバレ禁止が気になる◆『屍人荘の殺人』今村 昌弘

第27回鮎川哲也賞受賞作で、Amazonの作品紹介欄によれば「デビュー作にして前代未聞の3冠! 『このミステリーがすごい!2018年版』第1位 『週刊文春』ミステリーベスト第1位 『2018本格ミステリ・ベスト10』第1位」だそう。

いろいろな書評に取り上げられていて気になっていたのだけど、なにが気になるって、ミステリーだけにネタバレしないように書かれている、隠された部分。犯人がどうこうではなく、もうその設定自体が、ネタバレしたらあかんという状態らしく、なになに、どういうこと、と気になって仕方なくなって、読んでみた。

絶海の孤島とか、山奥の山荘とかで連絡手段がなくなって登場人物たちが取り残されてそこで殺人事件が! みたいな設定を、クローズドサークルというらしいのだけど、このクローズドサークルの作り方が、今までにないものだったので話題になったみたい。加えて、ミステリーとしての根幹の部分もしっかりと踏まえていてストーリーが成り立っているという、絶妙なバランス。っていうのが、いろんな書評をひっくるめて評価されている点のよう。

読んでみて、納得。たしかに、すごいクローズドサークル。すごい謎解き。登場人物が多いし、建物の構造とかあまり気にせずにズンズンと読んでしまったので、どこがどうなっているのかよくわからないまま終盤まできてしまった。が、そこでちゃんと伏線が回収されてトリックの種明かしもあって、はぁぁぁぁ…ってなった。SF的な要素もあるので、マンガとか映画とかになるかもしれない。この、ネタバレ禁止の作品が、今後どうなるのかが、気になる。

フリーランスのお金の話◆『自営業の老後』上田 惣子

マンガでわかる、フリーランスのお金の話。

大きな会社の社員とか、公務員だったらあまり考えなくてもいいのだろうけれど、フリーランス(自営業)の場合は、保険も年金も自分で管理しなければいけないから大変。特に年金なんて、バリバリ働ける若いときにいかにたくさん払っておくか、で老後の資金がかなり違う。

違うということはわかるけれど、じゃあ、何が一番得なのか、自分にできる範囲のお金の面での老後への備えって何? ってことが、おおざっぱにわかる1冊。

しかし、一番びっくりしたのは、フリーランスである著者自身が、この本を書くまで、公的年金を払っていなかったということ。民間の個人年金は払っていたというから、まったく興味がないというわけでもなく、お金がないというわけでもなく、知識がなかっただけなんだろうなぁ。日本の年金制度、よくできているのだろうけれど、ちょっと難しい。なので、自分で調べて勉強するしかない。最近は確定拠出年金などもあるので、上手に活用して老後に備えたいものだ。

ほっこりする関係◆『大家さんと僕』矢部 太郎

かなり話題になっていたので、読んでみた。ほのぼのとしたイラストにじんわり癒されるのだけど、ほのぼのとしたエピソードばかりでもないところがミソ。

普通だったら接点がなさそうな、高齢の大家さんの歩んできた人生とお笑い芸人さんの人生が、大家さんと店子さんとして交錯するところがおもしろい。そしてそれを、ときには面倒だなと感じたり、ときにはかわいらしいなと感じたりする、素直な気持ちがマンガから伝わってくるところが、共感を呼んでいるのだと思う。

第22回手塚治虫文化賞短編賞受賞作。

(電子書籍で読了)

せつない物語◆『青山娼館』小池 真理子

発売当初から気になっていたものの、ハードカバーでは高いなぁと思って、文庫化を待っていた。なかなか文庫化しないなぁと思っていたのだけど、Amazonでは発売日がかなり前なので、しらない間に文庫化していたのに気付かなかったのかも。

ともかく、やっと読んだ。遊郭ものが好きなので、現代の、東京にある娼館が舞台と聞いて興味津々だったのだ。小池真理子氏の著書は初めて。でもイメージとしてはやわらかな官能。そしてその印象は間違ってなかった。

なんというかせつない物語。家族の喪失という悲劇が、登場人物たちの感情のベースになっているけれど、悲壮感よりもたゆたうような頼りない、だれかにすがりたいようなせつなさ。人のぬくもりをもとめて高級娼婦という仕事を選ぶ主人公。恋人、親友を失った悲しみを、静かにゆっくりと埋め合う男女。

信じられないくらいの高額の会費を払ってやってくる娼館の会員達。あくまでも華やかで豪華な娼館を背景に、物語は主人公と彼女をとりまく人たちの過去を探りながら、ゆったりと進む。そしてせつない余韻を残しながらゆったりと幕を閉じる。

結局、人は過去からは逃れられないし、失ったものは取り戻せない。最後はそれを受け入れるしかないのだけども、そこに至るまでにはなにか、過去の自分を断ち切るような大胆な決断や行動も必要なのかもしれない。高級娼婦という仕事を別のものに置き換えれば、身近によくあることなのかもしれないとも思ったのだった。

1割には必要◆『日本人の9割に英語はいらない』成毛 眞

自分自身が英語が苦手で、「日本に住んでるんだから日本語が話せれば十分」と言っている。逆に、日本人が日本で、日本語で生活できなくなったら大問題だ。

まぁ、一種の英語コンプレックスなんだけども。そりゃ、英語に限らず、外国語ができたらいいなぁという思いはかなり強いのである。

本書はそんな英語コンプレックスな人たちに向けた本…なのかな。9割にいらない、と言っているけれど、1割には必要、とも言っている。10人に一人は英語が話せるほうがいいのだ。けっこうな割合だと思う。

要するに、必要もないのに英語を勉強することにお金と時間を費やすのは無駄だということ。本当に必要な人だけが勉強すればいいと。ほんとうにそう思う。英語を勉強する前に他に学ぶことがあるだろう、とも思う。

英語は目的ではなく、手段。目的の為に必要ならば学べばいいし、必要なければ無理に学ぶ必要はないのだ、ということを改めて確認したのだった。