NHKの朝ドラ「花子とアン」で話題になって、20年前に書かれたというこの本も売上がかなり上がっているらしい。ドラマの中では主人公の村岡花子の「腹心の友」、葉山蓮子として青春時代から熟年まで描かれているけれど、この小説ではのちの白蓮、燁子(あきこ)が筑豊の石炭王・伊藤伝右衛門のもとに嫁いでから「道ならぬ恋」の末に生涯の夫となる宮崎龍介と結婚するまでが描かれている。
幼くして意に染まぬ結婚をさせられ、出産するも離縁、そして家の都合でまたしても年の離れた夫と添わせられ、その夫には多くの愛人がいて…というなんとも波瀾万丈な前半生。華族の令嬢といえば聞こえはいいけれど、結局は「家」のためということで自分の意思とは関係なく人生を決められてしまうというのがこの頃の常識だったのかもしれない。
明治天皇までは側室がいたというから、妻以外の妾が多くいることにも寛容な社会であったのだと思う。故に、「妾の子」というのも多かったのだろう。かくいう白蓮も、妾腹である。
石炭王に嫁いだ美貌の華族の令嬢が夫に対する絶縁状を新聞に掲載したことで、当時は大事件となったようだけれど、それで結婚した宮崎龍介とは一生添い遂げている。奔放なお嬢様というよりは、芯の強い女性なのではないかという印象。
対照的に描かれている、初子(伝右衛門の異母妹)は言われるままに結婚し、それほど幸せではなかったけれどそれを受け入れていて、この時代の女性はこういう生き方をするしかなかった人も多かったのではないかと思う。でも燁子は龍介という伴侶を見つけて自分の生き方を貫いた。そこに共感する女性たちが多いのだと思う。
不倫の話なのだけども、どこかサバサバとしていて、浮き世離れしているところがいい。燁子は自分の人生をうじうじと悩んだりしないのだ。ウザイ夫には愛人をあてがい、自分は若い愛人と逢瀬を重ね、最後には意思を通してしまう。そして華族の身分もさっぱりと捨てて、平民として夫と生涯を共にする。かっこいいのである。
そんなサバサバとしたところが、現代の女性にも共感されて、今また注目されているんじゃないかと思ったのだった。