iPhone6s Plusで電子書籍版で読了。ほしよりこさんの独特の紙のザラッとした感触が味わえないのが欠点だけど、外出先でさらっと読み進められるのは電子書籍のいいところだと思う。電車の中で一気読み。
第19回「手塚治虫文化賞」のマンガ大賞にも選ばれた本作。すでに評価が高いのでなにも言うことはないのだけど、ともかく、噂通りのすごいマンガだった、という感想。
1974年生まれの著者と同い年なので、感覚としては近いものがあるのかなと思いながら著作を読んでいるのだけど、そんなこと関係なしに、年代を超えて訴えてくる力強さのある作品群だからこそ、評価されるのだろうな。
この作品にしても「きょうの猫村さん」にしても、平成とも昭和とも言えない、ちょっとノスタルジックな時代設定で、同年代から上の世代には懐かしさを、下の世代には新しさを感じさせる作風。いや、下の世代が新しさを感じているかどうかは正直わからないけど、なにかこう、現代の便利さとはかけ離れたのんびりとした時代感がいいのではないかなと思う。
鉛筆描きで、セリフまで手描きという手法。学生時代に書いていたノートの落書きとか、教科書の隅に書いていたパラパラ漫画の延長のような懐かしさ。
引き込まれて読んでいくと、小さなエピソードの積み重ねで深みを増す物語。主人公の逢沢りくは、周囲とは距離を置いて、冷めている女子中学生なのだけど、実は寂しさを抱えていて本人もそれに気付いていない。大人と子どもの中間で、大人の前では子どもを演じ、心の中では自分は大人だと思っている、そんな子。
とても特別な存在で周囲から浮いているようにも見えるけれど、実はごく普通の子なのだと、読者は気付いている。逢沢りくみたいに美人でも冷めてもいなかったけれど、自分の中学生時代もそんな風に大人の自分と子どもの自分を行ったり来たりしていたなぁと、誰もがそう思う部分があるのではないだろうか。
そんな、「大人っぽい中学生を演じている」逢沢りくが、賑やかな親戚の家に預けられて、大人でも子どもでもなく、そのままの自分を受け入れていく、そんな物語になっている(と思う)。どんなに賑やかな家族でも抱えている苦しみはあるし、どんなに冷めた家族でも表に出てこない愛情や幸福もある。そういうことを知ることが、大人になる、っていうことなんだろうな。