陰惨な無人島もの◆『蠅の王』ウィリアム・ゴールディング

だいぶ前に、「新潮文庫の100冊」に入っていたのを買ったのだけど、今の「100冊」には入ってない。しかも現在はどこの出版社のものも、古書でしか入手不可能のよう。何度も映像化もされているようで、DVDはいくつも販売されている。

無人島ものは好きなジャンルなのだけど、大抵は知恵と勇気と忍耐力で生き抜く物語。複数人であれば意見が対立しつつも協力しあって生き抜こう、という話になるわけだけど、この作品の場合はどちらかといえばホラー。救いがない。

子どもたちの無邪気さや純粋さというものが裏返しになって、人間の本能的な殺戮願望のようなものが理性という抑圧がない状態で解放されてしまうような、そんな話。

無人島だからこそ成り立つ無法でサバイバルな状況で、野生の豚を狩り、解体し、喰う。そしてあげくには仲間だったものまでも殺し、狩る。なんとも陰惨で読み進めるのが辛かった。しかしこれが人間の原始の姿なのかもしれない。そこから、法や秩序が生まれてくる、そんな物語だったらよかったのに、逆に、始めにはあったはずの秩序が崩れてゆく様が書かれているのだった。

陰惨であるが故に、心に残ってしまう物語、とも言えるのかもしれない。