そもそもの始まりから◆『あの戦争は何だったのか―大人のための歴史教科書』保阪 正康

学校の歴史の授業は、近代については駆け足で、結局、なぜ日本が戦争を始めたのかということがよくわからないままだった。「戦争は二度としてはいけない」という思いは多くの日本人が共有しているものだと思うのだけど、ではどうしたら戦争を防げるのか、というと、首をかしげてしまう。

では先の戦争はいったいどうして始まってしまったのか、というところから紐解かなければならない。「どうやって終わったのか」ということはよく語られるのだけど、「どうやって始まったのか」というとよくわからない。そこのところを、最初から丁寧に説明してくれるのが本書。当時の徴兵のしくみなども、知らないことばかりだった。

今の日本では、戦争についての評価が政治的な色合いを含んで、教える人によって様々な見方ができてしまう。だから、学校で詳しく教えることには抵抗があるのだろうとは思う。ではどういう本を読めばいいのかというと、それもまた悩ましいものなのだけど、本書は、前知識なしでも戦争の始まりから終わりまでの流れを知るにはよい1冊だと思う。ここからさらに、他の本を読んで知識を深めて行ければいいと思う。

映画化に期待◆『村上海賊の娘』和田 竜

2014年の本屋大賞受賞作。レビューでは一気に読めて面白いという感想が多くて、痛快なエンターテインメント小説っぽいなと思って読んでみた。

しかし、初読の著者だったので、文体に慣れるまでちょっととまどい。歴史小説なのだけど、途中途中で文献からの引用などがあって、立ち止まり、軽く読めるという感じではなかった。もう少し、物語に入り込んですらすらっと読めるもののほうが好み。

最初から登場人物が多く、しかもあまりよく知らない歴史上の人物達だったので、キャラクターを認識するのに四苦八苦。電子書籍だったので、前に戻って確認するのも手間取ったり。こういうときは紙の本のほうがいい。冒頭に掲載されている地図なども、紙の本のほうが簡単に参照できる。こういうところはデジタルのアプリの仕様の問題だと思うので、改善して欲しいものだ。

物語が進むにつれて、キャラクターを認識してしまうとだんだんと面白くなってきた。小説よりも映画やコミックのほうが、視覚で認識できるのでわかりやすそう。

そして、後半の戦いの場面になるとスピード感があって、ドキドキワクワクする展開。これまた、視覚的なメディアのほうが面白そう。んー。小説は小説ならではの表現で楽しいのがいいのだけど、「映画で見た方が面白そうだなぁ」と感じさせてしまうものってどうなんだろう、というのが率直な感想。つまり、映画の原作としてはいいよねーって感じがしてしまった。ノベライズに近いような。

村上海賊の姫ということで、胸キュンなサイドストーリーも少し期待していたのだけど、婿捜しというテーマはあるものの、キュンキュンするようなエピソードはなく、ちとがっかり。男目線なのかなぁ。映画にしたら、マッチョなイケメンがたくさん出せるので、きっと女子は萌えるのではないかという気はする。キュンキュンストーリーはなかったものの、いろんな種類の男性が出てくるので、自分の好みは誰かなぁと思いつつ読むのは楽しかった。うん、やっぱり映画化に期待だ。

(電子書籍で読了)


不動産経営はヤクザな世界◆『主婦でも大家さん』シリーズ 東條 さち子

主婦でマンガ家の著者がアパート・マンション経営に挑戦する実録コミックエッセイ。特別な資産家というわけでもなく、ローンで一棟買い、家賃収入でローン返済、というパターンなんだけど、実際にはほとんどがローン返済に回っているにもかかわらず、家賃収入全体に所得税がかかり、見せかけの高収入者となってしまう、という話は他人事ながら目からウロコ。

さまざまなタイプの賃貸物件を購入して経営したあげく、最後は「大家さん引退します。」で締めくくり。やっぱり不動産経営はあまり割に合わないからやめるのか…と思ったら、別にやりたいことがあるようで。すごいなぁ。

家賃収入(不労収入)に憧れているのだけど、親からの相続とか、もともとの資産(貯金など)が豊富とか、よっぽど強い思い入れ(やる気)があるとかでないと、たぶんやっていけない世界。儲かれば大きいけれど、失敗すると痛い目に遭うという、堅実そうに見えて、意外とハイリスクハイリターンな世界だなと思った。

売買のときに間に入る不動産屋さん業界も、はったりで回ってる、案外ヤクザな世界らしいから、素人が軽い気持ちで入り込むと足下見られてしまいそうだ。

(電子書籍で読了)


映画的なサスペンス小説◆『その女アレックス』ピエール・ルメートル

書店でずっと平積みになっていたので気になって読んでみた。

被害者だと思われた女が実は…という展開でどんなどんでん返しがあるのかと期待満々で読んだせいか、結末にもそれほど驚くこともなく、うん、そうきたか、っていう感じで読了。

シリーズとしては二作目のようで、日本ではこちらが先に翻訳出版されて、一作目が後から出版されているみたい(現在、三作目まで出版されている)。ストーリーは別個だし二作目から読んでもまったく問題なかったけれど、事件を追う刑事の過去についてちょこちょこと言及されているのがちょっと気になった。

シリーズの他の作品も読んでみたいと思うけれど、いかんせん、なんとなく暗くて、読んですっきりするタイプの作品ではない感じ。それで二の足を踏んでいる。読むなら早めに読まないと設定忘れそう。

主人公ヴェルーヴェン警部については一作目で人となりとその心の傷について描かれたと思うので、本作ではあまり深くは描かれず、焦点は「アレックス」という女に当たっている。「アレックス」の行動を追いながら、その過去と目的をひもといていく。冒頭で拉致され、監禁される「アレックス」。そして救出に向かった警察官たちがその場所に辿り着いたときには忽然と姿を消してしまった。その後に起こる異様な連続殺人。

とても映像的。映画的。ドラマ的。作者のピエール・ルメートルがもともとはドラマの脚本家だったそうで、ひどく納得。連続殺人が起こる場所も転々としていて、映像の場面転換としても効果的。映画になることを見越したような作品だなと思った。

(電子書籍で読了)


史実の裏側◆『名画で読み解く ハプスブルク家12の物語』中野京子

新書版でカラー図版が豊富ではあるのだけど、その図版の色がイマイチだったりするのが残念。しかし、相変わらず中野京子さんの歴史と絵画を絡めた文章は面白く、スラスラと読める。

ハプスブルク家といえば、私がハマったミュージカル「エリザベート」。ハプスブルク家最後の皇帝フランツ・ヨーゼフに嫁いだ悲劇の皇妃。そういう濃いエピソードを知っているとその項は、歴史上の人物たちの関係性がわかっているので読みやすい。

まったくの白紙状態だと、世界史の知識がないと情勢がわからなかったり、同じような名前の人が多かったりして、あとでわけがわからなくなる。この人とこの人は親子だったかなとか、兄弟だったかなとか、この王妃の実家はどこだったかなとか、しかも近親婚も多くて、ほんとうに複雑。でもそこが面白いのだけど。

歴史の小説などを読みつつ、たまにこの本を読み返すと史実の裏側がわかっていいかもしれない。