夏への扉 (ハヤカワ文庫SF)
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雑誌のSF作品オールタイムベストには必ず入る古典的名作。今度、演劇集団キャラメルボックスが舞台化するというので、この機会に読んでみた。
読み始めたら面白くてやめられず、一気読み。書かれたの50年以上前で、本の中での「現代」が1970年、主人公が冷凍睡眠(コールドスリープ)から目覚めるのが2000年という設定。ややこしい…。
もう、すべてが過去である。
そういう時代に自分が生きているというのもなんだか不思議だけれど、本の中の、「過去だけど未来」な世界はもっと不思議だった。本に出てくる未来の世界にあるもののいくつかは実際に今の世界にある。自動お掃除ロボットは実現しているし、自動製図機だってパソコンでちょいちょいだし、3D映像も実現して3Dテレビが普及しはじめた。
しかし、現実にはあるのに、本には出てこないものもあって、本の中の2000年の世界では新聞はまだ紙で、PCでできる自動検索なんてものもなくて、電子マネーも出てこない。読みながら、「あー、そこはRSSに登録しとけばいいのに…。あっ、それはSUICAでいいんじゃ…」などと思ってしまう自分が、ものすごく「未来人」になった気分だった。この小説が書かれた1950年台だと、クレジットカードですら一般的でなかったかも。っていうかクレジットカードなんてものがなかったのか。
改めて、いまの世界って、昔の人の想像を超えたすごい世界になっているのだ、と思ったのだった。鉄腕アトムもドラえもんもいないけど、21世紀、すごい。
コールドスリープやタイムマシンが出てきて、なんとなく読みながら、「あ、これってあとでこうなる伏線なのかな」なんて思う部分がいくつかあったのだけど、それはきっと、この作品からインスピレーションを受けた、この作品以後のSFなどで使われる手法だったのかもしれない。どこかで読んだことある、その作品のほうがこの作品の手法を真似ていて、こっちがオリジナルなのかも。
この作品が名作たる所以は、もちろんストーリーが面白いからなんだけど、もしかしたら、他のいろんなものが実現しているなかで、コールドスリープとタイムマシンは未だに実用段階ではないからかもしれない。同じく実現不可能かと思われた試験管ベイビーは、体外受精技術で半分実現しているけれどね。それもすごいことだ。
主人公のダンはもうすぐ30歳。猫のピートとともに暮らす優秀な技術者。会社も人生もうまくいっているはずだったのに、恋人と、仕事のパートナーに裏切られて30年間のコールドスリープに入れられてしまう。目覚めた世界は30年後。そこは素晴らしい世界だったけれど、30年前の出来事の真相を知るために再び過去に戻ろうとして…。というストーリー。猫のピートと主人公との関係が、なんともいい。お互いを尊重しあっている感じ。
そして、出てくる人々が、意外にみんなやさしい。やさしくない人も出てくるけど、やさしい人が多い。なんとなく、そこがこの作品の魅力のひとつかなと思った。ああ、みんながやさしいのは、主人公のキャラクターが「いいやつ」だからかも。読みながら、おもわず応援したくなってしまうそんなキャラクターなのだ。
21世紀は、1970年よりも素晴らしい世界、過去には戻りたくない、と言う主人公。そんな、夢のようないい世界に、今の現実の世界はなっているのかな。そう、なっていたらいいな。としみじみ思ったのだった。
■演劇集団キャラメルボックス「夏への扉」
http://www.caramelbox.com/stage/natsutobi/