映画的なサスペンス小説◆『その女アレックス』ピエール・ルメートル

書店でずっと平積みになっていたので気になって読んでみた。

被害者だと思われた女が実は…という展開でどんなどんでん返しがあるのかと期待満々で読んだせいか、結末にもそれほど驚くこともなく、うん、そうきたか、っていう感じで読了。

シリーズとしては二作目のようで、日本ではこちらが先に翻訳出版されて、一作目が後から出版されているみたい(現在、三作目まで出版されている)。ストーリーは別個だし二作目から読んでもまったく問題なかったけれど、事件を追う刑事の過去についてちょこちょこと言及されているのがちょっと気になった。

シリーズの他の作品も読んでみたいと思うけれど、いかんせん、なんとなく暗くて、読んですっきりするタイプの作品ではない感じ。それで二の足を踏んでいる。読むなら早めに読まないと設定忘れそう。

主人公ヴェルーヴェン警部については一作目で人となりとその心の傷について描かれたと思うので、本作ではあまり深くは描かれず、焦点は「アレックス」という女に当たっている。「アレックス」の行動を追いながら、その過去と目的をひもといていく。冒頭で拉致され、監禁される「アレックス」。そして救出に向かった警察官たちがその場所に辿り着いたときには忽然と姿を消してしまった。その後に起こる異様な連続殺人。

とても映像的。映画的。ドラマ的。作者のピエール・ルメートルがもともとはドラマの脚本家だったそうで、ひどく納得。連続殺人が起こる場所も転々としていて、映像の場面転換としても効果的。映画になることを見越したような作品だなと思った。

(電子書籍で読了)


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史実の裏側◆『名画で読み解く ハプスブルク家12の物語』中野京子

新書版でカラー図版が豊富ではあるのだけど、その図版の色がイマイチだったりするのが残念。しかし、相変わらず中野京子さんの歴史と絵画を絡めた文章は面白く、スラスラと読める。

ハプスブルク家といえば、私がハマったミュージカル「エリザベート」。ハプスブルク家最後の皇帝フランツ・ヨーゼフに嫁いだ悲劇の皇妃。そういう濃いエピソードを知っているとその項は、歴史上の人物たちの関係性がわかっているので読みやすい。

まったくの白紙状態だと、世界史の知識がないと情勢がわからなかったり、同じような名前の人が多かったりして、あとでわけがわからなくなる。この人とこの人は親子だったかなとか、兄弟だったかなとか、この王妃の実家はどこだったかなとか、しかも近親婚も多くて、ほんとうに複雑。でもそこが面白いのだけど。

歴史の小説などを読みつつ、たまにこの本を読み返すと史実の裏側がわかっていいかもしれない。

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それでも子育ては楽しい◆『生きづらいと思ったら 親子で発達障害でした』モンズースー

最近よく話題になる、大人の発達障害。なとなく人との関わり方が他人とは違うという違和感があったり、生きづらいと思っていたりするんだろうけど、家族も本人も障害だという認識がなく大人になってしまった人たち。だと思うけれど、人によってその程度も違うし、障害とまで言えなくても、そういう傾向がある人というのはいるんじゃないかと思う。この本の著者も、違和感を感じつつも折り合いをつけて仕事をしたり、結婚したりしているわけで、本人の工夫などで乗り切っている例はけっこうあるんだろうな(だからこそ、潜在的に一定数いるはずなのに出てこないの大人の発達障害が話題になっているのかも)。

障害という名前がつくことで、解決策が見えることも多いのだけど、この親子の場合、あちこち相談に行っても、なかなか必要な支援に結びついていないのがもどかしい。本人や家族が障害に偏見があったり、事態を軽く見たりして支援を求めない場合も多そうだけど、この本の著者は自分から積極的に相談に行っている印象。なのに、専門家のはずの相談相手が頼りにならない。この本をきっかけに、行政のほうもなにか改革をしてくれるといいと思う。

子どもの場合は、成長によって変化が激しいというのもあるのかもしれない。また、相談に行っても、子どもが成長してしまえばフォローできないので、相談役もその場で適当な返答をしたとしてもその後どうなったのかを知ることがなくて、データの積み重ねができてないのかもしれない。

本の内容は、コミックエッセイで読みやすく、必要以上に暗くなくて、発達障害についてもわかりやすい。現状で困っていることはたくさんあるのだろうけれど、自分のできる範囲で解決して、楽しく子育てしている様子が伝わってくる。同じような悩みを抱えている人には救いになるだろうし、そういう親子が周りにいる人には理解するための手助けになるんじゃないかな。まだお子さんが小さいので、これから小学校に入ったりすればまた別の問題も出てくるのかもしれないけれど、このまま楽しく乗り越えていって欲しい。

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ほっこりとタイムトラベル◆『たんぽぽ娘』ロバート・F・ヤング

SF小説の古典的な作品なのかな。表題作の「たんぽぽ娘」を読むために購入。きっかけは演劇集団キャラメルボックスの舞台「ミス・ダンデライオン」。その原案だというので。

読んでみたら、「ミス・ダンデライオン」よりも、映画でもヒットした、市川拓司さんの小説「いま、会いにゆきます」のほうが断然似ている…。というか、完全に元ネタなのではないかと。しかし、私の場合は先に「いま、〜」を読んでしまっていたので、どうしても、「たんぽぽ娘」のほうがマネっこのように思えて仕方ない。まぁ、それだけ「いま、〜」がよくできていたということだとも言えるのだけど。

正直、どの作品もそれぞれ独立してとても好き。タイムトラベルという時間のずれを利用したファンタジーで、男女の淡い思いを描いていて、最後にちょっぴり切なく、そしてほっこりと暖かくなるのだった。

タイムトラベルの仕組みを利用したストーリーの巧みさとともに、最後のほっこり感をちゃんと保っているところが、後発の2作品のいいところだなぁと思う。探せば他にも同じトリックを使った作品はたくさんありそう。

この短編集の他の作品もいいものがたくさんあったけれど、それと比べても「たんぽぽ娘」が人気あるのはよく分かる。ちょっぴりロリコン的な要素もあり、男性の心を掴むのかもしれないなぁ。

他の作品では、女性が強い世界が多いのが印象的だった。それも、凛とした成熟したものというよりは、野性的で動物的に進化した感じで、男性を支配するというもの。これは作者の、支配されたいという願望なのか、どうなのか。

そんなわけで、ロバート・F・ヤングの他の作品も読んでみたいとはあまり思わなかったのだけど(短編13編でお腹いっぱい)、「たんぽぽ娘」が名作だということは確認したのだった。うん。

(電子書籍で読了)

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近未来か現代か◆『わたしを離さないで』カズオ・イシグロ

出版された時から話題になっていて、気になっていたのだけども、ドラマ化されたのを機に読んでみた。

書評もたくさんあって、この本の特殊な設定の部分は隠されていたり、ほのめかされていたり、一部では明かされていたり。すでに映画化、舞台化もされているのでいまさら隠さなくてもいいのだろうけども、知らない方もいるかもしれないのでなるべくネタバレしないように気をつけて書いてみる。

私自身は、設定をだいたい知ってから読み始めたので、小説の中ではその部分はいつ明かされるのかと思いながら読み進めた。すると、意外に早い段階でわかって、拍子抜け。それは小説の中では設定の一部であって、本当のテーマはもっと普遍的なものなのだろう。解説でも、著者自身がそれを未読の読者にあえて隠さなくてもいいと言っていると書かれていた。

特殊な施設で育った若者たちの特殊な人生の物語。この物語には「外部の人」がほとんど登場しない。あくまで主人公たちの視点で書かれていて、その外側の世界がどうなっているのかは最後までよくわからないままだった。彼らが役割を終えたあとはどうなるのか、彼ら以外の人たちはそれをどう受け入れているのか、SF的な物語の、描かれなかった部分がとても気になって仕方がない。

それだけ、想像の余地のある、余白のある物語ということなのかもしれない。

自分と同じだと思っていた登場人物たちが、実は自分たちとは決定的に違う生い立ちがあって、その未来も決められている、そして彼らはその運命を淡々と受け止めて生きている。そう思うとせつなく、胸が痛い。彼らは自分たちと同じなのか、それとも異質な存在なのか。深く考えさせられる。

そして、近未来に訪れてもおかしくない世界を描いて、社会的な問題提起もしている作品である。何年か後に、ほんとうにこの物語に登場するような子どもたちがどこかで生まれているのかもしれない。もしかすると、今現在でもそういう目的で育てられている子どもたちがいるのかもしれない。人々が見ないようにしている、現代社会の闇の部分に光を当てているようにも思えた。

(電子書籍で読了)

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