虚無感ともどかしさ◆『人質の朗読会』小川 洋子

小川洋子さんの作品は、いつもちょっとドキドキしながら、ちょっとほっこりして、ちょっと残酷な気持ちになりながら読むのだけど、この作品は、冒頭で悲惨な結末が明かされていて、ひとつひとつのエピソードはいつもの小川作品なのに、読みながらとても寂しい気持ちになってしまうのだった。短編集なのに短編集ではないという不思議な構成の本。ひとつひとつのストーリーだけ読めば、短編小説なのだけれど、一冊の本になるとそれは「人質たちの朗読会」になるのだった。

監禁状態に置かれた人質8人が順番に自分の物語を朗読するというもので、その人質たちは救出されずに爆死してしまうことがわかっている。人質たちが語る物語には自らが現在置かれている状況や人質同士の人間関係については何ひとつ触れられていない。触れられていないからこそ、何があるかを見ようとしてしまう。でもなにも見えない。そんなもどかしさ。そう、この小説、すごくもどかしい。

なかでも、ビスケットやコンソメスープのお話が好きなのだけど、それを語った人たちはもういないのだと思うと、とたんに虚無感が漂う。この人たちがいまでも幸せな日々を送っていると思えば、ほっこりと幸せな気分になるのに。

そして最後の9人目の朗読者の物語だけが、今を生きている、生者の物語。そこに何を見いだすのかは、読者に委ねられている。それもまた、もどかしいのだ。