ほっこりする関係◆『大家さんと僕』矢部 太郎

かなり話題になっていたので、読んでみた。ほのぼのとしたイラストにじんわり癒されるのだけど、ほのぼのとしたエピソードばかりでもないところがミソ。

普通だったら接点がなさそうな、高齢の大家さんの歩んできた人生とお笑い芸人さんの人生が、大家さんと店子さんとして交錯するところがおもしろい。そしてそれを、ときには面倒だなと感じたり、ときにはかわいらしいなと感じたりする、素直な気持ちがマンガから伝わってくるところが、共感を呼んでいるのだと思う。

第22回手塚治虫文化賞短編賞受賞作。

(電子書籍で読了)

せつない物語◆『青山娼館』小池 真理子

発売当初から気になっていたものの、ハードカバーでは高いなぁと思って、文庫化を待っていた。なかなか文庫化しないなぁと思っていたのだけど、Amazonでは発売日がかなり前なので、しらない間に文庫化していたのに気付かなかったのかも。

ともかく、やっと読んだ。遊郭ものが好きなので、現代の、東京にある娼館が舞台と聞いて興味津々だったのだ。小池真理子氏の著書は初めて。でもイメージとしてはやわらかな官能。そしてその印象は間違ってなかった。

なんというかせつない物語。家族の喪失という悲劇が、登場人物たちの感情のベースになっているけれど、悲壮感よりもたゆたうような頼りない、だれかにすがりたいようなせつなさ。人のぬくもりをもとめて高級娼婦という仕事を選ぶ主人公。恋人、親友を失った悲しみを、静かにゆっくりと埋め合う男女。

信じられないくらいの高額の会費を払ってやってくる娼館の会員達。あくまでも華やかで豪華な娼館を背景に、物語は主人公と彼女をとりまく人たちの過去を探りながら、ゆったりと進む。そしてせつない余韻を残しながらゆったりと幕を閉じる。

結局、人は過去からは逃れられないし、失ったものは取り戻せない。最後はそれを受け入れるしかないのだけども、そこに至るまでにはなにか、過去の自分を断ち切るような大胆な決断や行動も必要なのかもしれない。高級娼婦という仕事を別のものに置き換えれば、身近によくあることなのかもしれないとも思ったのだった。

1割には必要◆『日本人の9割に英語はいらない』成毛 眞

自分自身が英語が苦手で、「日本に住んでるんだから日本語が話せれば十分」と言っている。逆に、日本人が日本で、日本語で生活できなくなったら大問題だ。

まぁ、一種の英語コンプレックスなんだけども。そりゃ、英語に限らず、外国語ができたらいいなぁという思いはかなり強いのである。

本書はそんな英語コンプレックスな人たちに向けた本…なのかな。9割にいらない、と言っているけれど、1割には必要、とも言っている。10人に一人は英語が話せるほうがいいのだ。けっこうな割合だと思う。

要するに、必要もないのに英語を勉強することにお金と時間を費やすのは無駄だということ。本当に必要な人だけが勉強すればいいと。ほんとうにそう思う。英語を勉強する前に他に学ぶことがあるだろう、とも思う。

英語は目的ではなく、手段。目的の為に必要ならば学べばいいし、必要なければ無理に学ぶ必要はないのだ、ということを改めて確認したのだった。

そもそもの始まりから◆『あの戦争は何だったのか―大人のための歴史教科書』保阪 正康

学校の歴史の授業は、近代については駆け足で、結局、なぜ日本が戦争を始めたのかということがよくわからないままだった。「戦争は二度としてはいけない」という思いは多くの日本人が共有しているものだと思うのだけど、ではどうしたら戦争を防げるのか、というと、首をかしげてしまう。

では先の戦争はいったいどうして始まってしまったのか、というところから紐解かなければならない。「どうやって終わったのか」ということはよく語られるのだけど、「どうやって始まったのか」というとよくわからない。そこのところを、最初から丁寧に説明してくれるのが本書。当時の徴兵のしくみなども、知らないことばかりだった。

今の日本では、戦争についての評価が政治的な色合いを含んで、教える人によって様々な見方ができてしまう。だから、学校で詳しく教えることには抵抗があるのだろうとは思う。ではどういう本を読めばいいのかというと、それもまた悩ましいものなのだけど、本書は、前知識なしでも戦争の始まりから終わりまでの流れを知るにはよい1冊だと思う。ここからさらに、他の本を読んで知識を深めて行ければいいと思う。

映画化に期待◆『村上海賊の娘』和田 竜

2014年の本屋大賞受賞作。レビューでは一気に読めて面白いという感想が多くて、痛快なエンターテインメント小説っぽいなと思って読んでみた。

しかし、初読の著者だったので、文体に慣れるまでちょっととまどい。歴史小説なのだけど、途中途中で文献からの引用などがあって、立ち止まり、軽く読めるという感じではなかった。もう少し、物語に入り込んですらすらっと読めるもののほうが好み。

最初から登場人物が多く、しかもあまりよく知らない歴史上の人物達だったので、キャラクターを認識するのに四苦八苦。電子書籍だったので、前に戻って確認するのも手間取ったり。こういうときは紙の本のほうがいい。冒頭に掲載されている地図なども、紙の本のほうが簡単に参照できる。こういうところはデジタルのアプリの仕様の問題だと思うので、改善して欲しいものだ。

物語が進むにつれて、キャラクターを認識してしまうとだんだんと面白くなってきた。小説よりも映画やコミックのほうが、視覚で認識できるのでわかりやすそう。

そして、後半の戦いの場面になるとスピード感があって、ドキドキワクワクする展開。これまた、視覚的なメディアのほうが面白そう。んー。小説は小説ならではの表現で楽しいのがいいのだけど、「映画で見た方が面白そうだなぁ」と感じさせてしまうものってどうなんだろう、というのが率直な感想。つまり、映画の原作としてはいいよねーって感じがしてしまった。ノベライズに近いような。

村上海賊の姫ということで、胸キュンなサイドストーリーも少し期待していたのだけど、婿捜しというテーマはあるものの、キュンキュンするようなエピソードはなく、ちとがっかり。男目線なのかなぁ。映画にしたら、マッチョなイケメンがたくさん出せるので、きっと女子は萌えるのではないかという気はする。キュンキュンストーリーはなかったものの、いろんな種類の男性が出てくるので、自分の好みは誰かなぁと思いつつ読むのは楽しかった。うん、やっぱり映画化に期待だ。

(電子書籍で読了)