蟹工船・党生活者 (新潮文庫)
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蟹工船の労働者たちが、現代のワーキング・プアに通じるモノがあるというので、一大ブームだそうである。文庫本自体、400円くらいで安いので手に取りやすいというのもあるのかもしれない。
久しぶりに“日本文学”を読んだ気がする。なんだかんだ言って、長く世に残るものというのはいいものなのだ、と思った。共感はしないのだけど、物語として、単純に面白い。
人間を人間とも思わないようなひどい仕打ちに耐える労働者たちが次第に結束してついに反旗を翻す。その結果やいかに…。
同時収録の「党生活者」は小林多喜二の実体験に基づいて描かれているそうだが、これもわかりやすく面白い。共産主義者が“赤”として取り締まられていた時代。多喜二自身も警察での拷問により29歳の若さでこの世を去っている。
これらの物語を現代と通じるモノがあると思うかどうかは人それぞれだろうけれど、共感を覚える人たちも少なからずいるのかもしれない。資本家の搾取。働いても働いても上がらない賃金。現代と似ているようで違う気もするが…。
私自身は、この人たち(共産主義者)の目指す社会の全体像というものがイマイチよくわからなくてそれが理想的なのかどうかすらナゾ。労働者の待遇改善は必要だけれど、その手段として労働者の結束、上への反抗というものが果たして正しいのかどうかは疑問が残る。結局、政治の問題なのでは?
「蟹工船」の当時は労働者たちがひどい処遇を受けても訴え出る場所もなかったけれど、今はきちんとそれを相談する窓口がある。だから当時とは状況が違う。…という記事を新聞で見た。共産主義も取り締まりの対象ではない。言論の自由もある。しかし、やはり現代のワーキング・プア問題を「蟹工船」と同じと感じる人が多いというのは事実なのだろうから、どうしたら改善できるのかを社会全体で考えていく必要があると思うのだった。