リンゴが教えてくれたこと (日経プレミアシリーズ 46)
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私は農業をやったこともないし、親戚に農業をやっている人もいないのだけど、家の周りには田んぼが多く、地域柄、梅の実の収穫用の梅の木も多くて農作業をする方々の姿を目にすることも多い。だから、なんとなく、四季を通じての農業というか、農作業の大変さはわかる気がする。同時に、収穫の歓びも。
年々、農業従事者が高齢化し、田んぼだった場所が宅地になっていくのを見るにつけ悲しく寂しい気持ちになる。この本はリンゴ栽培について書かれているけれど、稲作などの他の農作物に関しても触れられていて興味深かった。無農薬だと収穫量が減る代わりに肥料代が減るので収入は増えるというのが目からウロコ。労働時間も少なくて済むので高齢の農業従事者の負担も減るそうだ。
また、農業を通じて著者の木村さんの生き方も見えてきて、学ぶところが多い。
失敗を繰り返しても辛抱強く何度もチャレンジする。目的に向かって骨身を惜しまず勉強する。無理に自我を通さず、周囲の人々を説得して協力を得る。しかし信念を曲げない。
無農薬や有機農法と呼ばれる手法にはさまざまなものがあるようで、おそらく木村さんの到達した方法もそのうちのひとつであり、異論もあるだろうし、地域差もあるだろうとは思うのだけど、それとは別に木村さんご自身の生き方や考え方にはなにかひとつの哲学のほうなものがある気がして、農業に従事する人だけではなく、迷っている人、悩んでいる人にも読んでもらいたい一冊である。