働かないアリに意義がある (メディアファクトリー新書)
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2割のアリは働かなくて、その働かない2割を取り除いても残りのアリたちの2割が働かなくなる、なんて話を聞いたことがあるのだけど、その研究をしている方の本。
集団生活をしているアリや昆虫にもいろいろな種類があるし、人間の社会とはまた違うのだけど、どうしても我々の生活や社会と結びつけて考えてしまう。そして「ああ、なるほどねぇ」となんとなく安心したり、共感したりしてしまう。
個人的にとても興味深いと思うのは、アリの世界では子どもを産む個体というのが限られていて、その他大勢のアリたちは自らは繁殖せず、ひたすら集団の維持のために存在しているということ。
人間社会では、子どもを産む女性と産まない女性、産みたくても産めない女性、産んでも育てられない女性など、いろいろいるけれど、女性にとって、子どもを持つか持たないかというのは生き方を考える上でとても重要な要素。
そもそも結婚しない、できない女性もいるし、結婚したときには出産の適齢期を過ぎている場合もある。結婚したら子どもを持つ、というのが当たり前と考えられている社会的風潮は、今はだいぶなくなったけれど、それでもやっぱり「お子さんは?」と聞かれることも多いだろうと思う。
はたして、子どもを持たない生き方というのは、生物として繁殖に貢献していない、ということなのだろうか、と常々疑問に思っていた。子どもを持たない女性について、自らは産まないけれど、広い意味で、社会の子育てには貢献し、役に立っている、という視点は今の社会にはあまりないように思う。
子育て中の女性から、なんとなく「あなたは子どもがいないから気楽でいいわね」と思われてる気がするし、子育てが終わった女性からは「私は子育てという一大事業を終えて社会的役割を果たしたわ」という充実感を感じてしまう。そして「子どもがいない私って、なんて社会の役立たずなんだろう」と後ろめたく思ってしまうのであった。
しかし、アリの世界は違う。集団の持続のために、産まない個体たちが働いて巣を維持して産まれた子どもをみんなで育てる。そしてなかには働かないアリもいるのだけど、そのアリたちにもちゃんと意味があって、子孫繁栄のためには必要なのである。
子どもを持たない人たちも、税金を払ったり、産休中の仕事を肩代わりしたり、子育て中の親のサポートをしたり、子どもたちが安全に遊べるように地域で見守ったり、大きな意味で子育てに参加しているという意識を持てるような社会になったら、出生率ももっと上がるんじゃないかなと思う。
産む人を増やすのも必要だけど、産まない人も子育てに参加したり、貢献しているという意識を持てるような工夫も必要なのかなと思うのであった。