苦役列車
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表題の「苦役列車」は第144回芥川賞受賞作。先に新聞等でレビューをいくつも読んでいたので、読後感もほとんど違和感なし。社会の底辺で生きる主人公を描きながらユーモアがあり明るさが感じられる、云々。どこかで読んだような感想文しか書けなそうだ。
むしろ同時収録されている「落ちぶれて袖に涙のふりかかる」を興味深く読んだ。どちらも私小説のカテゴリーなのだろうが、「落ちぶれて…」は今現在の話。中卒であるということにコンプレックスを抱き、賞などというものに拘るのは「名声欲にかつえた乞食根性丸出しの下賤の者には違いない」などと分析し、悶々とする。しかし賞は欲しい。
芥川賞を受賞して時の人となった著者はいったい今、どんな心持ちなのだろうと思いつつ読んでしまう。この人の文章は、とても丁寧で繊細。ひとつひとつの言葉がすべて意味のあるもので、ぴたっとそこに収まっている感じがする。だから読んでいて気持ちがいい。内容はともかく。あるべきところにあるべき言葉がある、という感じなのだな。ライトノベルなどよりこういう小説のほうが好き。