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猫を抱いて象と泳ぐ (文春文庫)
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チェス盤の下に潜り込むために成長しないリトル・アリョーヒン、バスに住んでいる太ったマスター、マスターの愛猫のポーン、壁の隙間に閉じ込められた少女ミイラ、ミイラの肩にとまった白い鳩、デパートの屋上から降りられなくなってしまった象、家具職人の祖父と弟、孫の幸せを願う祖母、老人施設の総婦長さん、チェスを愛する老婆令嬢…。
相変わらず、小川洋子さんの小説に登場する人たちはみんな優しくて愛しい存在である。最初から最後までそのイメージを崩さず、みんな慎ましく自分の役割を全うする。何人もの登場人物が死ぬというのに、その死さえもその人らしく物語の中に組み込まれて一つの音楽を奏でているように調和を乱さず、フィナーレに向かって流れてゆく。
残酷なのに美しくやさしい物語。チェスというモチーフが、あたかも劇中劇のようで、物語の中でいくつもの別の物語が展開しているようでもあった。
そして読後に改めてタイトルを読み返すと、短い言葉でこの小説をなんてよく表したタイトルなんだろうと感嘆してしまった。