子育て、出産、夫婦エッセイ◆『ガミガミ女とスーダラ男』椰月 美智子

椰月美智子さんの痛快エッセイ。エロネタ連発のダンナさんとそれに対抗するべくいっつも怒鳴りっぱなしの妻・椰月さんの日常。なんだけども、このエッセイがウェブに連載されていた当時、椰月さんは第二子を妊娠中ということで、子育て&出産エッセイとしても読めて面白い。

しかし、正直言って、こういう夫婦ネタって、一般人がそこここでブログに書き殴っているような内容であり、面白いけども、特殊な夫婦ではないよなぁと思いつつ読む。小説家として売れているからこそ、これを出版社のウェブサイトに連載して原稿料が成り立つということが羨ましい。夫の憂さを晴らすのだったら無料ブログでもいいと思うのだけども、それを収益に結びつけてしまうところがプロ。書籍化まですれば完璧だわ。私も小説で一発当てればブログ記事でお金もらえるかしら…(無理無理)。

むしろ、こういうことをフィクションというオブラートに包み込んで小説として成り立たせてしまうところにこそ椰月美智子さんの本領が発揮されるんじゃないかとも思ったり。

個人的には、椰月さんのお住まいの場所が、とってもよく知っている地域なので、あ、これはあのお店か、産婦人科はあそこね、駅伝を見てる場所は、うちの父もよく見に行くけどもテレビ中継ではいつもCMになってあまり映らないんだよなーって言っていた場所だわ、とか、そんなローカルなツボでひとりで盛り上がり。

小説もそうなんだけど、椰月作品の語り口って、どうも小田原っ子っぽい感じがする。小田原人って自分が訛っているとは思っていない(標準語だと思ってる)んだけども、外から来た人が聞くとすごく訛ってるそうな。私たちの年代になると、字面で見るとそうでもないのだけど、やっぱり下町口調というか、会話のリズムがトタタタタタタ〜としてるらしく、怒ってないのに「怒ってるの」って言われたり、ケンカしてるわけじゃないのにケンカしてると思われたりする。

だから、スーダラ男とガミガミ女のやりとりも、日常会話の延長なのかしらねーなんて思いつつ読んでいた。小田原人の会話って、うるさいのだ。でもスーさん(スーダラ男さん)は平塚(小田原から少し離れてる)出身らしいので、微妙に違ってもう少しのんびりしているのかもしれない。なので、ガミガミをスーダララとやり過ごせるし、二人はそれでうまくいっているのかも。いや、たぶんご本人達は大きく否定しそうだけども。

それにしても、椰月さんは男性にモテるのね。歴代の彼氏がいっぱいいて、結婚も二度目で、そしてさらに、なぜかたまたま私が読んだものがそうだっただけかもしれないけれど、椰月作品を絶賛しているのは男性(おじさん)が多い。いや、よい作品だと思うけど、そんなに!? ってくらい絶賛。なにかおじさんのツボをくすぐる作風なのか。おじさんの中の少年の心を呼び覚ますのか。よくわからない。

それなのにスーさんは妻の作品をまともに読まない(読めない?)というのもまた面白い。エッセイの内容は「100%事実です」ということ椰月さん。ブログもそうだけども、事実しか書かないけどもすべてを書くわけではなく、あえて書かない事実というのもあるわけで、やはりフィクションの要素が入って来るし、主観によって誇張されてる部分もあると思う。小説だったらありかもしれないけど、実際にこれやったらダメでしょうっていう行為もあるし、そこをぼかすと面白くなくなってしまうということもあるので、こういう暴露系のエッセイって難しいと思う。たぶん、書かれてないところでもっと面白いことがあるんじゃないかと勘ぐってしまう。

小説なら思いっきり書けるから、次は是非、小説ではじけて欲しい。…ってこのエッセイが書かれたのがかれこれ5年前だそうなので、すでにいろんな作品に反映されているのかもしれない。