叶う夢に向かって◆『諦める力』為末 大

電子書籍で読了。紙の本じゃないのでパラパラと戻ったりできなかったのだけど、どうも同じようなことを繰り返し書いている印象。つまり、タイトルの「諦める力」というのを書きたかったのはよくわかったけれど、普通の社会人だったらそういうことは経験で分かっているんじゃないかというようなことで、特別、なにか新しいものは感じなかった。

オリンピックまで出た人なので、経験をもとにしたエピソードは出てくるけれど、普通の人よりは少しスケールが大きいというだけのような気がした。それよりも、もう少し自伝的な内容のほうが興味がそそられるかもしれない。

30代半ばまで「諦めずに」スポーツ選手を続けてきて、いざ、引退することになったときに、会社勤めのための(年齢相応の)経験もなにもなくて就職に支障が出るというのは、スポーツの世界独特の問題のような気がするけれど、それを一般論にして「諦めることも必要」という話にしてしまうのもちょっと違和感。

「頑張れば報われる」「諦めなければ夢は叶う」、そんなことはない。叶わない夢は諦めて、叶う夢に向かって前に進もう。

要するに、そういうことのようだ。異論はないけれど、それ以上のものでもなく、目からウロコが落ちるような話もなかった。けれど、この本が売れているということは、「なるほど、そうか」と吹っ切れる人もいるのかもしれない、それもかなり大勢。それだけ、みんな頑張っているのだな。

成功している人っていうのは、「捨て上手」だと思う。ひとつのことで成功するために、ほかのたくさんのものを「捨て」てきている。別の言い方をすれば「諦めて」いる。家族だったり時間だったり学生生活だったり。それはひとつの理想の形ではあるのだろうけれど、大多数の人は、そこまで割り切れなくて、諦めきれないんじゃないかな。それはそれで、いいのではないかという気もする。

でも諦めきれない自分が嫌だったり、諦めてしまったことに対する後悔がある人もいるのだろう。そういう人に対して、この本の、諦めてしまってもいいんだよ、というメッセージは励ましになるのかもしれない。

著者の活躍したスポーツ界には特に、そんな人が多いのだろう。頑張って、頑張って、燃え尽きてしまうような。

しかし一般の人たちは、逆に頑張りたかったけど諦めてしまった、という人のほうが多いような気がする。そして多くの人は、経験的に、諦めることも必要だということを知っている。だからこそ、「やればできる」という本に希望を見いだす人も多いのだろう。その逆を行くこの本だけど、やればできるっていうのも、夢を叶えるために他のものを諦めてでもがんばりましょうってことだから、結局同じことを言ってるんじゃないだろうか。

要するに、自分に向いているものに注力して、向いていないものに時間や労力を割くのは無駄だからさっさと諦めなさい、ってことで、それって、そんなに目新しいことじゃないなという読後感であった。