近未来か現代か◆『わたしを離さないで』カズオ・イシグロ

出版された時から話題になっていて、気になっていたのだけども、ドラマ化されたのを機に読んでみた。

書評もたくさんあって、この本の特殊な設定の部分は隠されていたり、ほのめかされていたり、一部では明かされていたり。すでに映画化、舞台化もされているのでいまさら隠さなくてもいいのだろうけども、知らない方もいるかもしれないのでなるべくネタバレしないように気をつけて書いてみる。

私自身は、設定をだいたい知ってから読み始めたので、小説の中ではその部分はいつ明かされるのかと思いながら読み進めた。すると、意外に早い段階でわかって、拍子抜け。それは小説の中では設定の一部であって、本当のテーマはもっと普遍的なものなのだろう。解説でも、著者自身がそれを未読の読者にあえて隠さなくてもいいと言っていると書かれていた。

特殊な施設で育った若者たちの特殊な人生の物語。この物語には「外部の人」がほとんど登場しない。あくまで主人公たちの視点で書かれていて、その外側の世界がどうなっているのかは最後までよくわからないままだった。彼らが役割を終えたあとはどうなるのか、彼ら以外の人たちはそれをどう受け入れているのか、SF的な物語の、描かれなかった部分がとても気になって仕方がない。

それだけ、想像の余地のある、余白のある物語ということなのかもしれない。

自分と同じだと思っていた登場人物たちが、実は自分たちとは決定的に違う生い立ちがあって、その未来も決められている、そして彼らはその運命を淡々と受け止めて生きている。そう思うとせつなく、胸が痛い。彼らは自分たちと同じなのか、それとも異質な存在なのか。深く考えさせられる。

そして、近未来に訪れてもおかしくない世界を描いて、社会的な問題提起もしている作品である。何年か後に、ほんとうにこの物語に登場するような子どもたちがどこかで生まれているのかもしれない。もしかすると、今現在でもそういう目的で育てられている子どもたちがいるのかもしれない。人々が見ないようにしている、現代社会の闇の部分に光を当てているようにも思えた。

(電子書籍で読了)