男性も読んで欲しい◆『間違いだらけの高齢出産』吉村 泰

タイトルにあるように、高齢出産をしようとする女性向けに書かれた本だけど、それよりも若い世代や男性にもぜひ読んでもらいたい一冊。

最近話題になっている卵子老化や、高齢出産のリスク、卵子提供、代理母、出生前診断など昨今の出産事情について、若い人も知っておいたほうがいい知識が一般向けにわかりやすく書かれている。

40代になってから不妊治療のために病院を訪れる人も多く、その中には出産適齢期(著者によれば25歳から35歳)があることを知らず、生理があるうちは出産できると思っている人もいるとか。女性でもそうなのだから、男性でそのことを理解している人はもっと少ないのだと思う。

おそらく、将来結婚して子どもを欲しいと思っていて、現在同じくらいの年齢のパートナーがいる若い男性でも、女性の出産適齢期について意識しておらず、結婚は(お互いに)30代、40代になってからでもいいと思っている人も多いのではないだろうか。

女性の側が出産年齢について意識していても、男性の理解を得られなければ結婚して出産できないケースもあると思う。だから、これから子どもを持とうという若い世代にこそ、この本を読んでもらいたい。

また、適齢期を過ぎて子どもが欲しいと思っている女性(とそのパートナー)にも読んでもらいたい。多くの人たちが思っている以上に妊娠そのものが命の危険を伴う行為で、高齢であることでそのリスクがさらに高まる。日本では妊婦の死亡率が低いのでお産は安全なものという思い込み、安全神話のようなものがあるけれど、実は世界的に見れば(または昔の日本でも)お産で命を落とす女性は多いのだ。

それだけのリスクを負う覚悟で高齢での出産を望むのなら仕方がないけれど、いざ妊娠してからリスクを認識したり、出産するまで楽天的に考えてしまっていたりする人も多いようだ。それで無事に出産できればいいけれど、そうでない場合は訴訟になることもあるかもしれない。いくら訴訟をしても失われた健康や命はかえっては来ない。もしかしたら、リスクを負う前に「産まない」という選択肢もあるかもしれなかったのに。

日本で高齢出産が多いのは、キャリアを持つ女性たちが出産適齢期に子どもを産めないという社会的な面もあるし、高度な医療で妊婦の死亡率が少ないので自分も産めると思ってしまうこともあるだろうけど、もうひとつ、養子縁組のしにくさというのもあるように思う。制度面での問題もあるだろうけれど、日本の社会に養子が差別される風潮があるのも理由のひとつだと思う。

両親に育てられずに施設で暮らす子どもたちが多くいる一方で、高額で身体に負担のかかる不妊治療を受け続ける人たちもいる。自分たちの遺伝子を残したい、という人も多いのかもしれないけれど、中には養子でもいいけれど、さまざまな条件が折り合わずに養子ではなく不妊治療を選んだというカップルもいると思う。

妊婦さんの様態の急変というのは、前兆がなく突然やってくるのだそうだ。昨日まで元気だった人が出産で亡くなってしまうということも特別に珍しいことではないらしい(日本ではまれではあるのだろうけど)。この本にも書いてあるけれど、高齢出産の場合は大量出血などのリスクが高くなるそうで、輸血や子宮摘出などの処置が必要になることも多いらしい。

それらのリスクを承知した上で「産まない」という選択肢もあるし、「養子縁組をする」という選択肢もあるし、「子どものいない人生」という選択肢もある。

いずれにしても、産みたい人にはリスクの説明と助成金などの支援、養子縁組をしたい人にはそのハードルを下げるような仕組みが必要だと思う。独身女性でも養子縁組ができれば、無理に結婚して高齢出産しなくてもいいとも思う。シングルマザーでも子どもが育てやすい社会になれば適齢期に子どもを産む女性が増えるのではないかとも思う。

「高齢出産」というキーワードは、多様な女性の生き方を認めない社会のゆがみが生み出したものなのかもしれないとも思えてくるのだった。