もやもやする◆『彼女は頭が悪いから』姫野 カオルコ

実際の事件を題材にした小説(フィクション)。この事件は当時のニュースで知って印象に残っていた。どこまでフィクションに置き換わっているのかも興味深かったのだけど、事件そのものはほぼ実際の状況を再現しているようだった。そこもフィクションに置き換えてもよかったと思うけれど、割り箸とかドライヤーとか、実際のニュースでも報道されたキーワードが出てきてちょっともやもや。というのも、物語の世界よりも、実際の事件との差違について考えてしまって、気もそぞろになってしまった。完全にフィクションで事件そのものの内容も実際とは変えてあれば、物語に没頭できたのに。

一方で、ノンフィクションとは違って、登場人物たちの名前や経歴は変えてある(と思う)。事件が起こるまでの出来事も、どこまでが作者の想像でどこまでが事実なのかがよくわからないから、ここでももやもや。個人的には、中途半端なフィクションよりは、ノンフィクションのほうがすっきりしていい。

前知識なしに小説として読んだらどうか、と考えてみたけれど、うーん。

事件の起こるまでの経緯も、結果も、やっぱりもやもやのまま。東大生のグループが女子大生を部屋で裸にしてわいせつ行為をした、という事件なのだけど、レイプはしていないし、わいせつ目的というよりは女性をからかって貶めるような、ふざけ目的だったみたい。当時のニュースでも、事件の詳細が報道されていたけれど、そのあたりがもやもやしていて、この加害者たちはいったいなにをしたかったんだろう、って疑問だった。

小説では、そのあたりの疑問については一応の答えがあって、それを明かにするための物語のようだった。世の中には、エリート意識にとらわれていて、自分よりも地位や学歴が低いと思われる人々を蔑んだりバカにしたり見下したりする人々がいる。不幸にもそういうグループの被害にあってしまった普通の女子大生。その溝は、事件の前も後も、埋められない。加害者たちは自分に落ち度があったとは思っていない。自分たちには(自分たちよりも下の階層にいる)被害者に対してどんなことをしても許されて当然だと思っている。

では、今回加害者になった東大生たちのような人たちに対して、そうでない(見下される側の)人たちはどうしたらいいのか。その答えは書いてない。

なので、前知識なしにフィクションとして読んでも、読後はもやもやするんじゃないかと思う。ネタバレになるけれども、結局、加害者たちはそれぞれに和解案を受け入れたり、裁判で有罪判決を受けたりはしたけれど、事件そのものを反省はせず、エリート意識はそのまま。被害者となった女子大生も事件後はバッシングを受けたりして事件前と同じような生活は送れないという結末。もやもや。

もやもやは現実だけで、小説の中ではすっきりしたい。

(電子書籍で読了)