明治初期の遊郭で生きる女性たちの物語。貧しい漁村から売られてきたイチ。東雲楼の花魁、東雲さんと紫さん。遊廓の中の教場で、女郎たちに文字を教える鐵子(てつこ)さん。
鐵子さんは落ちぶれた武家の娘で元女郎だった。年季が明けからは遊廓の帳場などで働いていて、今は、遊廓に売られてきた少女たちに生きるために必要なことを教えている。鐵子さんは、遊廓の中でひっそりと、自立して生きている。
自分の名前をきちんと読めること、書けることは、契約書や帳簿をごまかされないために必要。お客へ書く手紙よりも大事なこと。女たちは、助け合いながら、したたかに生きていく術を学んでいる。
花魁の東雲さんと紫さんは東雲楼の稼ぎ頭で、彼女たちの稼ぎで、楼の人や物が回っている。そして彼女たちは借金にしばられているわけではなく、自分の意思で女郎をやめることができる。彼女たちも自立している。
登場する女性たちがそれぞれが、自分の境遇を悲観するわけでもなく、だからといって全面的に受け入れているわけでもなく、しなやかに、飄々と生きている。
そして、最後には一致団結して行動を起こすのだった。それも、大胆ではあるけれど、派手ではなく、淡々と実行されるのだった。
江戸から明治へ、時代の変わり目を経て、女たちも生き方を自分で選ぶことができるということに気づく物語なのかもしれない。ここに登場する女性たちは廓のなかでも恵まれた境遇であったのだろうけれど、運命を受け入れるしかないとは思わずに、運命を切り開こうという志を持った女性たちに少し勇気をもらった気がする。
(電子書籍で読了)